◆東京デート◆

扉が開く度に入り口を見つめる。
「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」店員が声を掛ける。
「珠紀ちゃ〜んッ!!」声をかけ、手を振る。

ホッとしたような微笑を浮かべ彼女がこちらへと近づいてくる。
駅近くのこの喫茶店はオンナノコでいっぱい。
オンナノコというものは自分との上下関係を即座に判定する。
チラ…チラ…
彼女が動くと周囲の視線も動く。
そして見なかったことにする。
だって彼女ってばラスボス級の美しさだもの。
棍棒に布の服の勇者では太刀打ちできない。

彼女が私の前に着くと皆の視線が私に集まるのがわかる。
もぅ…皆さん。どんな美青年がいるかと思っていたんでしょう。そんなにあからさまにガッカリしなくったって…

ふぅ。小さく溜息をつき、微笑む。
「珠紀ちゃん、久しぶり。」





彼女はコートのボタンに手を掛け、そのまま席に着く。
「もしかして学校厳しい?制服で出掛けちゃまずかった?」
「ん…でも学校からは遠いから大丈夫かな?」
再び立ち上がりコートを脱ぐ。

クラシカルなセーラー服。勿論スカートは膝をすっかり隠す丈。
うーん。イメージ通りのお嬢様。
「珠紀ちゃん、その制服も似合う!」

「あ…有難う。清乃ちゃんは…制服の方が似合ってた…」
「それって褒め言葉だと思っていいのかな?」

私はセミロングの髪をおろしており、グレイのジャケットにお揃いの膝丈のタイトスカート。
就業後そのままで来てしまったのでちょっと地味目なOL風?
でも珠紀ちゃんに合わせてもっと若い格好にしてくれば良かったかなー?

「え…と…そういう事にしておいて。」
曖昧な微笑みを浮かべる珠紀ちゃんへの助け舟の様に店員が水とメニューを持って来た。
「何でも好きな物を注文して? お姉さんおごっちゃうから!」

「でもコーヒーでいいかな。」
「えー!?私はケーキセットにしようと思っていたのに!
 で、珠紀ちゃんのケーキも味見したかったのに!」
コーヒーだけなんて…話がすぐ終わっちゃうじゃない!
私の勢いに負けたのか…
「…清乃ちゃんはどのケーキが食べたいの?」





ケーキセットを待つ間、鞄から携帯を取り出し構える。
「はい、珠紀ちゃん笑って?」
「ど、どうしたの?突然。」うーん、ちょっと笑顔がぎこちない?
「近々季封村に行くの。珠紀ちゃんの元気な姿を皆に見せようと思って。」
「ああ。」安心したように微笑む彼女をフレームに収める。
「んー。でもこの制服写真、鴉取先輩ならかなり高額で売れちゃうかも?」
「き、清乃ちゃん!」
「やだなぁ…冗談だよ、冗談。」
「まだ鴉取『先輩』なの?清乃ちゃんの方が年上なのに?」
「歳のことを言われちゃうと…でもやっぱり鴉取先輩と狐邑先輩には『先輩』ってつけちゃうなぁ。」
「そういえば私が『清乃ちゃん』って言うのも変だね。」
「えー?今更『多家良さん』とかって言うのはナシだよー。」
私達は顔を見合わせ笑った。





ケーキをフォークで突きながら珠紀ちゃんは聞き辛そうに尋ねる。
「あの…清乃ちゃん。芦屋さんって今どうしてるの?」
「もしかして気にしてた?」
「…うん…ちょっと。」
「芦屋さんなら大丈夫だよ。むしろ栄転?今は京都の担当になったの。珠紀ちゃんは全然気にしなくて良いの、あんなオヤジ。」
「あのオヤジって…清乃ちゃん前に好きだった人じゃないの?」
「だけど…人の気持ちを利用して泥棒させようとしてたじゃない!
 あそこで珠紀ちゃんに見つからなかったらどうなっていたかと思うと…」
何度も思っていた。
もし、私が宝具を盗んでいたら?
芦屋さんはどうしていたのかって。
だから珠紀ちゃん、芦屋さんのことなんて気にしないで。

「もういいの! 芦屋さんは過去の男! 今は大蛇さんよ!
 で?珠紀ちゃんの本命は?
 鬼崎君だったりして?美鶴ちゃんと争っちゃったりしちゃう?」
「争っちゃったりしてるのは清乃ちゃんでしょ…」

「ちょっとー!! 十代の恋愛と二十代の恋愛を一緒にしないで欲しいな! 私達は真剣なんだから!」
「私達だって真剣ですけど?」

「うーん真剣っていうのとはちょっと違うかな? うん、そう。『切実』だ!」
「確かに。あのフィオナ先生と争うんだから『切実』だよね…」
「うるさいなー!! あ、でも珠紀ちゃんの本命は大蛇さんじゃないよね?
 やだよー、これ以上強力なライバルが増えるの。」

多分。
現時点では、珠紀ちゃんに好きな人はいない。
あ…うん、勿論みんな好きだろうけど。特別な人はいないと思う。
んー。冗談めかして言ったけど、本当に珠紀ちゃんまで大蛇さん狙いだと…勝てる気がしません!!
そりゃ、フィオナ先生にだってアレだけど。
フィオナ先生はまだ『コブツキ』ってハンデがあるもの!

「ね?珠紀ちゃん、またこうして会えるかな?」
「ど、どうしたの?突然。」
「…駄目?」
「駄目じゃないよ。友達でしょ?」

「じゃ、またデートしようね!」



2006.10.09