◆序章(3)◆ |
私は容姿の所為で子供の頃から同性には嫌われていた。 その分異性からは慕われていたが。 同性の友達がいないことを心配した両親は私を小中高一貫教育の女子校に進ませた。 女子が沢山いれば一人位は友達が出来るだろうという単純な考えだったらしい。 そこで両親の願いは叶えられる。 同性同士の閉鎖された空間だと妬みはほとんど発生しなかった。 勿論異性が絡む場は極力避ける等の努力はしたが、私は自分の容姿を気にせず静かに暮らしていた。 ここに来るのが嫌だった理由はそれだ。 村の高校は一つしかなく、当然共学。 またあんな思いをするのかと気が重かった。 しかも到着早々、おまけに同居女性からも嫌われたらしい… なんとか理由をつけて元の生活に戻れるように祖母を説得せねば。 固い決意を胸に秘め、祖母の待つ部屋へと向かった。 「ババ様。お連れいたしました」美鶴ちゃんは固い声のままそう言うと、頭を下げ出て行った。 …私は静かに目の前に座る人を見つめる。 「…久しぶりね。珠紀」 「ええ。おばあ様もお元気そうで何よりです」 それきり会話が途切れてしまった。 考えてみれば祖母と二人きりになったという事が子供の頃からなかった。 友達からは祖父母というものは強請れば何でも買ってくれるというような事を聞いていたが 祖母、宇賀谷静紀という人にはそういった孫に対する甘やかなものはなかった。 また理由はわからないが、母が私と祖母と二人きりにさせるのを避けていた節がある。 母は万事控えめで依存心の強い人だったので、子供ながらに奇妙に感じていた。 暫くの沈黙の後で祖母は突然口を開いた。 「カミ様が騒いでいるの。珠紀。わかる? 今、この村にはカミ様の世界が近づいているのよ。 そしてそれは、あなたにも関係のあることなの」 祖母という人は母とは違い落ち着いた、知的な人物だと思っていたのだが寄る年波には勝てなかったのだろう… 私には一切構わずに祖母は続ける。 「すぐれたるとは尊きこと善きこと功しきことなどの、優れたるのみを云ふに非ず 悪しきもの怪しきものなども、世にすぐれて可畏きをば、神と言うなり。 世の中の不可思議な物事、これらをカミと言う、そんな意味の言葉よ」 「それが私にも関係があることというのは?」 「この村に入る時、何かを感じなかった?」 私は黙って頷く。 「あれはね、この村を代々封じてきた結界なの。あなたが玉依を継ぐ者だから、強く反応したのね」 「待ってください。継ぐってなんですか。私は両親の海外転勤で…」 そうか。この人が私を呼んだんだ。 両親になにかつけこまれる隙があったのだろう。 私が口を噤むと、祖母はまるで私の質問を無視して続けた。 「神代の昔より、私たちが守り続けてきたもの。最初のカミの化身。世界を滅ぼす力。それが鬼斬丸。 それを封じている結界なの。 私たちの血にはそれを管理する者の血、玉依姫の血が流れているの。 でも封印が薄れカミはざわつき人の世とカミの世は近しくなった。 カミの世と人の世。そのバランスが崩れてしまう。私たちが祀り、封じている鬼斬丸はそれだけの力を持っているのよ。 あなたは鬼斬丸を再び封印しなければならない。玉依の血を継ぐ者として。 あなたをここへ呼んだのは、そういうことなの」 一気にそれだけ言うと祖母は口を閉ざした。 |
2006.07.25 |