◆序章(4)◆

「私が封印をしないと世界が滅びる…ということなんですね。」私は半信半疑のまま祖母に問う。
「ええ」祖母は静かに答える。

「封印というものはそう簡単にできるものなのでしょうか?」
「そうね。失敗すれば死んでしまうかもしれない」簡単に言ってくれる。
これで子供の頃からの祖母の態度にも納得がいった。
私のことをそういう目でみていたのだ。

「では私は具体的に何をすればよいのでしょう?」
どうやら封印というやつをしなければ私は以前の生活に戻れないらしい。
「玉依姫は七五三の儀式で玉依の血を覚醒させるものだけれど…
 あなたの場合は儀式をしていないから…」祖母は口篭る。

「儀式をしていない場合はどうすればいいのですか?」
「…それは。わからないの」

「わからない!?そんな状況で封印なんて成功するわけないでしょう?
 あなたは私に死ねと言っているの!」
「悪かったわ…本来なら私の役目であったのに。でももう私が玉依姫である期間は過ぎてしまったの」

「では…母は…なぜ母ではなく私なんです!」
「あなたの母は才能がなかったの…儀式をしても無駄なほどに。
 でもあなたの血はとても濃いものなの。だからきっと方法はあるはずよ。
 過去の文献を調べたらきっと…」

私は生贄になったのだ。
今までは封印というものもそれほど弱体化していなかったのだろう。
でもどうしようもなくなり、母か私が犠牲にならなければいけなくなった。
母に好意的に考えると、全く才能がないよりは可能性に賭けたといえないこともないが。

「わかりました。努力はしてみます。しかしおばあ様にも協力はしていただきます。
 調査は自分で行うとして、カミに襲われた際の身の守り方等を教えていただきます。いいですね。」
祖母が無言で頷くのを確認すると、私は部屋から退出した。

部屋の外には美鶴ちゃんが待っており、あいかわらず固い声のまま
「あらかじめババ様にことづかっていました」と小さな生き物を差し出した。

白い仔猫のようだったが、不思議なことに尻尾が二つに割れていた。
「オサキ狐と呼ばれる妖の一種です。代々この家に仕え、主を守ってきました」
手を差し出すとオサキ狐は私の手のひらに飛び乗ってきて嬉しそうに鳴いた。

「常にあなたの側に仕え、あなたを守ります。それがこの仔の役目。
 転入手続きは予め済ませてあるので明日からは学校の方へ。」
美鶴ちゃんは言うことだけ言うと、後は黙って私が使うことになっている部屋へと案内した。

そこには既に先客がいた。しかもイビキをかいて…
「あ…あの元々この部屋は鬼崎さんがお昼寝に使っていた部屋で…」

美鶴ちゃんが言い訳をはじめたのを制して
「いいの。このまま寝かせてあげましょう。
 ところで美鶴ちゃん、古い文献を調べたいんだけど手伝ってもらえる?」



2006.07.25