◆一章一日目(1)◆

記念すべき初登校。
転入先は紅陵学院という、歴史を感じさせる学校だった。
今まで通っていた高校はエアコン完備の教室だったので、
床や机・椅子まで木造というのはタイムスリップをしたかのようだった。
自己紹介や授業を終えて、今はもう昼休み。
窓際の日当たりの良い席で、机の上ではオサキ狐が気持ち良さそうに眠っている。
今朝、美鶴ちゃんに説明を受けた通り、他人には見えないものらしい。
当面はこの仔だけが私の味方だ。

転校生という者は皆同じなのだろうか。
誰も視線を合わせようとしない。視線は感じているのに。
さすがに高校生だし、あからさまな虐めとかはないはず…
当面やらなければならない事は山積みだし、気にするのはやめよう。
それにしても美鶴ちゃんのこのお弁当は何なのだろう。

一言で言えば、豪華

だけど年頃の女性としてはカロリーが気になる。
なんとか自分で作ることは出来ないかな。
のろのろとカロリーを考えながら箸を進めていると…
突然隣の席の女の子が「ねえねえねえ。なんかこっち見てた?」と顔を思いっきり近づけてきた。
「み、みてません。気のせいじゃないですか」という私を無視して
「やっぱり引き合う運命なのかも!
 私ね!多家良清乃って言うの!ああー!私のこと気にしてくれてたのね!」
まるで突っ込む隙を見せずに話しかけてくる。
正直、初対面の女の子にこれ程親しく話しかけられたことが無いので
どうも胡散臭く感じてしまう。

「えへへ。ちょっと興奮しちゃったよ。いやー私も転校生でさ。
 あ。勿論、随分前にこっちに来たんだけど。
 一目見てお仲間だーって思った、っていうわけなのよ。
 やっぱり街の人だって感じがするもん、珠紀ちゃん」

珠紀ちゃん…初対面で私のことをこういう風に呼ぶ人は、まずいない。
どうもそういう気軽に話しかけられるタイプではないらしい。
同年代ならば春日さん。珠紀ちゃんというのは母位の年代の人達だ。

「ほんとはね。休み時間に入ったらすぐにでも飛んでいきたかったんだけどさ。
 やっぱり最初が肝心、でしょ。まずは腹ごしらえでもして、落ち着いて話をしようかな、って思ったの」

これで落ち着いてるんだったら、空腹時はどうなってしまうんだろうな、などと私は考えていた。

「さて、友達になったからにはいいことを教えてあげるね。」
一方的に友達にされてしまっている!と思ったが抗議の声をあげる前に彼女は話し始めた。

「まず第一に、この村では携帯が通じないの」

それは昨日経験済みだ。黙って頷くと

「それからもう一つ。昨日ね。荷物を抱えた超絶美少女が鬼崎君と一緒に歩いているのを見たっていうクラスメートがいてね
 それで、同棲してるんじゃないかという噂がさ。
 皆そのこと聞きたいんだけど、聞いちゃいけないのかなって、そんな感じだったのよ。」

一斉にクラス中の視線が集まっている。
…そうか視線の意味はこれだったのね。虐めじゃなかったのね。
あからさまにホッとしている私に清乃ちゃんは「本当はどうなの?」って顔をしている。

「ご想像にお任せします」とニッコリ微笑んでみる。
とりあえず鬼崎拓磨ファンクラブ(存在すればだけれど)には恨まれるかもしれないけれど
こうして牽制しておけば不特定多数の男女から恨まれることはなくなる筈。

「あんまり関わんなよ。こんなやかましいのと」

気付くと私と清乃ちゃんの目の前に拓磨が立っていた。
「あれあれ、ひっどい言われようね。いつもはあんまり喋らない鬼崎君がどうしたのかな?」
からかうようにそう言う清乃ちゃんを面倒くさそうに拓磨は見て、私に向き直り

「ちょっと来い。ほんとは放課後にまとめてと思ってたけど、気が変わった」
拓磨はぶっきらぼうに呟くと、私の手を取った。



2006.07.26