◆一章一日目(3)◆

席に戻り、慌ててお弁当を片付ける。
清乃ちゃんが何か話しかけたそうだったが無視を決め込むことにした。

午後の授業も終り、また清乃ちゃんが話しかけたそうだったが
颯爽と鞄を持って立ち上がり「皆さん、ごきげんよう」と教室を飛び出した。
これで「お高くとまってる」とか「田舎を馬鹿にしてるんじゃない」とか言われるかもしれないけれど。
私は命を賭けなければいけないんだから、小さい事は気にしていられない。

図書室に入る前に息を整える。
「失礼します」頭を下げて入る。
今まで通っていた学校の図書室は個人のIDカードがないと本の貸し出しはおろか
入室すらできなかったが、ここは違っていた。
昔ながらのというか、趣のある場所だった。
古い本の匂いが室内には立ち込めており、気分が落ち着いていく。
ひょっとして今後の調査に役立つかも…と気になるタイトルをしゃがみこんで手帳に書き写していた時だった。

首筋に手が触れ、髪が揺れた。

ガバッと振り返るとそこには手にオサキ狐を乗せた男性がいた。

「いい子だ。」
手のひらのオサキ狐をいとおしむような眼差しで見つめている。
私はそんな彼を訝しんだまま見つめている。

「オサキ狐は主に似る。おまえ次第で強くも弱くもなる。いい狐に育つといいな」
オサキ狐が見えるということは常人ではないのだろうが…
いきなり触れられた事は良い気分ではない。

しばし無言で睨みあっていると
「先に会ってたのか。ちゃんと話せたか」背後から声が掛かった。
私は黙って首を横に振ると、拓磨は何故かホッとした様子で簡単に紹介してくれた。
「この人が狐邑祐一先輩。俺たちの一歳上だ」
「春日珠紀です…」渋々私も挨拶をするが目を閉じた彼は反応がない。
拓磨に目で問うと
「寝てるな。これは」

「!?」
「この人の特技は、いつでもどこでも一瞬で眠れることなんだ」拓磨は平然と言うけど。
それってかなり普通じゃないから!!



2006.07.26