◆一章一日目(4)◆

眠ってしまった祐一先輩をおいて。
私と拓磨は帰路につく。
拓磨は相変わらず二人きりになると口が重くなるようで…
楽しい帰路とはいかなかったけれど。

「突然来た女の子を守れって言われて…納得してるの?」
さりげない風を装って拓磨に聞く。
拓磨は短く息を吐くと
  「納得するとか、しないとか…とかそういうことじゃない。
 誰もそれには逆らえない。
 俺たちは血に捕らわれてる。でも…」
搾り出すようにそう言った。

最後は殆ど聞こえなかったが『捕らわれている』という言葉が頭の中を巡っていた。
私はどうなのだろう。
祖母達にはめられた形ではあるが、最後には納得してこの役目を引き受けたつもりだった。
でも私も『血に捕らわれている』のだろうか…

そんな事を考えていたら、神社についてしまった。

「ただいま戻りました」
「おかえりなさいませ。鬼崎さん。珠紀様。」
『ただいま』に返答がある生活をしていなかったので、戸惑いながらも嬉しさを感じる。
…たとえそれが拓磨のオマケでも。

「いいことでもあったのか。随分上機嫌な顔をしてるけどよ。」
拓磨の声に美鶴ちゃんははにかんだように
「今日はとても賑やかなお夕食になりそうなので」

それは良かった。
昨日は美鶴ちゃんと二人でとても気まずい夕食だったのだ。
序盤は頑張って話しかけてみたものの、どうにもならず…
明日からは祖母と同じ様に部屋で一人でとることにしようかと思っていた位だ。

「珠紀様、鬼崎さん、居間の方へ。皆様、もうあがってらっしゃいます。」

…皆様?
そういわれてみれば玄関には男性用の靴が並んでいる。

「こんばんは。お先に失礼させてもらっています」
衝立の陰から出てきたのは長身・長髪・和装の眼鏡の男性。
明らかに学生とは思えない容貌にこの人の職業はなんだろう?と考えてしまう。

「はじめまして。春日さん。守護五家の一人、大蛇卓です。」
「ご挨拶が遅れて申し訳御座いません。春日珠紀と申します。」私は頭を下げる。
「これから暫くの間、五家のまとめ役として務めます。よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。」私は再び頭を下げる。

玄関先でそんな挨拶を交わしていたら
「ほら、行くぞ」
機嫌悪そうに呟くと、拓磨は私の手を取り歩き出した。
ちょ…ちょっと待って!また美鶴ちゃんが!!
心の叫びは声にはならず、私は美鶴ちゃんの表情に硬直したまま居間に引き摺られていった…



2006.07.26