◆一章一日目(5)◆ |
居間に入ると… そこには何故か真弘先輩と祐一先輩がいた。 真弘先輩はともかく、祐一先輩は明らかに図書室で寝ていたはずなのに 何故私達よりも先にここにいるのだろう。 近道があるのならば、今度教えてもらおう。 そんな事を考えていたら… 「鍋は大根からが基本だ。煮えにくいもんから入れるのが上策。そうだな拓磨。」 「うす。奉行。」 「白滝とネギも忘れるなよ」 「うす。奉行。」 真弘先輩と拓磨が掛け合いながらサクサクと鍋に具を入れていく。 「肉、入れるのか?」見ているだけだった祐一先輩が呟く。 「そりゃ、入れますよ。肉の入らない鍋なんて、邪道ッスから」 「苦手だな。俺は葱と白菜だけで。」 真弘先輩と拓磨は声を合わせて 「大、歓、迎!」 私は美鶴ちゃんにどこに座ればいいのか確認すると 拓磨から最も遠い席を示された。 尤もそれは美鶴ちゃんからも遠い席だったけれど。 こうして夕食は賑やかにスタートした。 肉を取り合って牽制しあう拓磨と真弘先輩。 白菜と葱ばかり食べる祐一先輩。 そんな状況を楽しそうに見ている大蛇さん。 美鶴ちゃんも拓磨の隣でニコニコと笑っている。 「どうしたのですか?ちっとも箸が進んでいないようですが。」 大蛇さんに問われるまで、自分が何も食べていないことに気づかなかった。 「皆さんに圧倒されてしまって…」 曖昧に誤魔化していざ箸を伸ばしてみて、今まで『鍋』というものを食べたことがなかったことに気付いた。 一人の食事が多かったので、鍋を囲むなどということがなかったのだ。 この具材ってもう食べられるのかな? 私の箸は空中にとまる。 皆の視線が一斉に集まる。 私は正直に今まで食べたことがないのでわからないと告白した。 すると次の瞬間。 私の取り皿はまるで小さな鍋を再現したかのように具材で溢れていた。 「ありがとう、美味しい」 そう伝えると皆は嬉しそうに頷いて、また元の通りに賑やかになっていった。 ただ一人、殺気を孕んだ目でこちらを睨んでいる美鶴ちゃんを除いては!! |
2006.07.26 |