◆一章二日目(3)◆

「ね!今日こそは私が村を案内してあげる!!」
HRが終わるや否や清乃ちゃんは私の鞄を掴みそう宣言した。
「ごめんなさい。今日は先約が…」言いながら鞄を取り返す。

「えー!でも本当にそのうち一緒に遊ぼうね。」
「そのうちにね…」
教室を出て行こうとする清乃ちゃんに手を振って見送る。

すると何か思い直したかのように突然振り返り
「最近さ。神隠しが起こるとか、女子の間で噂になってるの。
 ただの噂だけど用心に越したことはないでしょ。
 一人で出歩かないほうがいいかもね!」
そう言うと清乃ちゃんは一人で帰っていった…

昨日も一人で出歩くなと注意をされたのだが。
その割に今も拓磨はいない。

一人で家に帰ったら怒られるかな?
こういう時、携帯が使えないって不便だな。

とりあえず今出来ることは…と考えて、
昨日メモした本を借りに図書室に足を運ぶことにした。
勿論入れ違いになってもよいように、机の上には行き先をメモして。

受付で本の貸し出し依頼をすると「一回五冊まで!」と半数の貸し出しを拒否された。
図書室を見回すと、そこに目当ての人物が座っていた。

「先輩」
反応なし。
「先輩、起きてください」
全く反応なし。

残りの図書カードに『狐邑祐一』と書いて受付に提出し
祐一先輩の鞄の中に本を詰め込んだ。

「何をしてる?」
よりによってこのタイミングで目を覚まさなくても…というタイミングで祐一先輩は目を覚ましたらしい。
「…そ、それは…」
さすがに人様の鞄を無断で開けている現行犯だし、犯罪を疑われても仕方ない状況。
正直に理由を説明したが、祐一先輩の眼差しはかなり疑わしげだった。

哀れこれにて玉依姫伝終了か−−−と思ったその時。
足元の影から出たオサキ狐が祐一先輩にじゃれついた。

「ああ、おまえ元気そうだな」とたんに先輩の眼差しが急に柔らかくなる。
「ニー」オサキ狐も嬉しそうに返事をする。
「随分慣れているんですね」

「元は同じ血をひくものだからな」ポツリと先輩が言う。
「同じ血をひく?」昨夜の大蛇さんの言葉が蘇る。

「そうか、おまえはまだ何も知らないんだな」
「ええ。だから調べようと思って」
「…で、こういうことか」と鞄を指す。

しまった。うまく話が逸れたと思ったのに…

「…俺たちも守るという役目と基本的な事柄以外は何も知らされていないんだ
 自分が何者なのか。これから為すべきことがなんなのか、興味があるのか」
私は頷く。

「なら神社に行けばいい。あそこには色々な文献が眠っているはずだから」

やはりあそこか…
でも一昨日美鶴ちゃんに「鍵がないので入れませんよ」と
やんわり立ち入りを禁止されたばかり。

「ありがとうございました。行ってみます」と頭を下げ立ち去ろうとすると
「一人で行かせるわけにはいかない。俺も守護者だから。」
そう言って並んで歩き出した。



2006.07.26