◆二章一日目(4)◆

…つ、疲れた。
清乃ちゃんの追求をかわすために休み時間毎にトイレへのダッシュを繰り返した所為だ。
今度はまた別の噂がたてられそうだ…

昼休み開始のチャイムが鳴ったので今も廊下を走っている。

ドカ

何かに当たって、思わずバランスを崩す。
「わ、お弁当!」
私は放り投げてしまったお弁当に手を伸ばす。
が、お弁当は指先を掠めただけで間に合わない。

「加速!」

その時不思議なことが起きた。
失速していた私の体は急に勢いをつけ、見事お弁当を捕まえたのだ。

ズザーッ
辛うじて顔面着地は避けたが『廊下でお弁当をダイビンキャッチする女』という新たな噂の種を蒔いてしまったようだ。

「怪我はないですか?」
差し出された手の先を見て驚く。

「み、美鶴ちゃん?」
私は差し出された手につかまり、立ち上がると彼をまじまじと見つめる。
そう、彼。
男子の制服を着ている。
女顔の所為なのだろうか。どことなく美鶴ちゃんに似ているような気がした。

「あの…僕…」
目を潤ませて真っ赤になっている様は男の子にしておくには勿体ないほどの愛らしさ。

「ありがとうございます。」
そう言って、さりげなく手を離す。

離れた手を見つめながら、彼が尋ねる。
「…あの、もしかして。あなたは春日珠紀先輩ですか?」
「え?」
先程、空中で不自然に加速したことを思い出す。

「あれって、あなたが?もしかして五人目の?」
「はい。僕、一年の犬戒慎司っていいます。やっぱりあなたが、玉依の…」



2006.07.28