◆二章二日目(1)◆

…負けた。

ここ二日連続で台所戦争に勝っていたので、いつもの時間に行ってみると。
既に美鶴ちゃんがお重を抱えて微笑んでいた。
み、美鶴ちゃんの目の下の隈が怖いんですけど?





「はい、真弘先輩。」
「なんだよ、これ?おせち料理か?」
玄関を出て早々に美鶴ちゃん特製弁当を真弘先輩に押し付ける。

「お、おもッ。おまえ、どんだけ食う気だよ。」
そう。今日の美鶴ちゃん特製弁当は三段重ね、重量は優に1Kgを越えているものと思われた。
真弘先輩は抗議の声をあげていたが、「お昼にあげますから」と言うと黙って歩き出した。





通学路の真ん中にその人は立っていた。

「やあ、おはよう。」
朝だというのによれよれスーツ。
ちっともお洒落じゃない無精髭。
寝癖のついた髪。

「元気そうでなによりだ。」
「おはようございます。私達、急ぎますので…」
そういって脇をすり抜ける。

「うちの清乃が迷惑をかけていないかな。」
「清乃ちゃん?」
背中から掛けられた声に立ち止まってしまう。

「いや実はさ。僕は清乃の叔父でね。」
振り返り、儀礼的に頭を下げる。
「そうですか。清乃ちゃんにはいつもお世話になっています。
 でも今は登校時間ですので失礼致します。」





席についてまじまじと隣席の清乃ちゃんを観察する。
「…似てない。」
「え?何が?」
今朝、叔父さんに会ったと伝えると清乃ちゃんはなんだか複雑そうな顔をした。



2006.07.31