◆二章三日目(1)◆

「いたた…」
全身に残る筋肉痛に顔をしかめ、起き上がる。
「ニー?」
私を心配するように寄り添ってくるおーちゃんの頭を撫でる。

昨日のことは神社に辿り着いてから先は記憶が曖昧だった。
ただこの筋肉痛と倦怠感からあれが事実なのだと知らされる。

「私、どうしちゃったんだろ。」
目眩がした後、自分の意識が隅っこに押しやられ、
何者かに体の自由を奪われてしまったかのようだった。

以前、本で読んだ多重人格者とはこういう感じなのだろうか?
玉依姫という別の人格が前面に出ている間、春日珠紀という人格はバックステージからそれを見ているような。
玉依姫になるっていうことは、私が私でなくなるということなんだろうか?

…そんなことを考えていたら、台所大戦は2勝2敗の五分になっていた。





「昨日は御迷惑をお掛けしました。」
ドライと名乗る老人が居るまでは朧気ながらも記憶があるのだが、
それから先は先程目を覚ますまで、一切なかった。
…と、いうことはきっと五人に迷惑を掛けたに違いないのだ

「もう、平気か?」
祐一先輩の言葉に力強く頷くと、皆安心したように歩き出す。
真弘先輩に無言でお重を渡しても文句を言わずに持ってくれた。

登校中は昨日の話は一切せずに。
真弘先輩は「クリスタルガイ」というドラマは如何に面白いかとか
いつもはあまり話さない拓磨までも「尾崎斬九郎」は如何に素晴らしい剣豪かという熱く語り
私達は笑いながら登校した。

…皆に気を使わせちゃってるなとは思ったが、
今は皆の優しさに少しだけ甘やかさせてもらうことにした。



2006.08.02