◆三章二日目(2)◆

私は食事を済ませ後片付けをした後、蔵へと向かった。

今回は前回の反省も踏まえて、懐中電灯を持参した。
が、日中の所為か天窓からはそれなりに光が射し、懐中電灯は不要だった。

埃を払いながら蔵の中を進み、
ふと目に留まった書物を眺めてみると、すらすらと頭の中に入ってきた。

明らかに以前は読めなかったと思われるこのミミズのような文字を判別するとは!
恐るべし玉依の血!! などと一人感心する。

これで調査効率も上がる!と盛り上がってみたが、
蔵一杯の蔵書の事を考えたら、そうも思えなくなってきた。

「教えて、玉依姫!」
誰が聞いているわけでもないが空中に向かって問いかけてみる。

すると私の視線がある一冊に釘付けになる。
「これ、読めってことですか?」

私は古びた書を手にとってみる。


『贄の儀の書』

玉依の血、薄れども、人の世の情念、霊を血に宿らせこれにより鬼斬丸を封印せしものなり
鬼斬丸の封印弱まる。一人。再びの世に幸あれかし。かくて、血による守り堅固になりけり
鬼斬丸の封印弱まる。二人。再びの世に幸あれかし。かくて、血による守り堅固になりけり


「何これ?」
数字が異なるだけで延々この繰り返し。筆跡が異なるところをみると多数の手によるものらしい。
読むことは読めたが意味がわからない。

すると頭の中に映像が思い浮かんだ。

  沼。どこか陰気な感じのする沼。

  − 以前夢の中に出てきた場所だ −

  白い装束を着た人が沼の縁から歩いてきて、ゆっくりと沈んでいく。

  − !? −

映像がプツリと消え、現実に戻される。
「な、に、これ?」
口では言ってみたものの、心の中では悟っていた。
鬼斬丸の封印は村人の犠牲の上に成り立っていたのだということを。



2006.08.04