◆四章一日目(3)◆

「珠紀様、こちらにおいででしたか。
 ババ様がお呼びです。居間にいらして下さい。」
声が聞こえるまで私は蔵の中で呆然としていた。

美鶴ちゃんに何と声をかけてよいかわからず、私は黙って美鶴ちゃんの背中を見ながら歩いていった。
居間に着くと、そこにはおばあ様の他にもう一人。

「美鶴、下がりなさい。」
美鶴ちゃんがいなくなると芦屋さんが口をきいた。
「やあ、久しぶり。」
私は無言で頭だけ下げる。

「珠紀、これからはこの芦屋と協力して戦うように。」
「どういうことですか?」
おばあ様に問うたつもりが答えは別の方から返ってきた。

「僕は典薬寮の人間でね。
 典薬寮というのはカミと人、カミとカミの間を調停、管理してきた国の秘密の機関でね。
 まあ、この村だけは鬼斬丸が玉依の血でのみ管理できるということで治外法権だったのですが。
 今回ばかりは緊急事態につき協力をと思っているのです。
 我々のような政府の人間でも鬼斬丸なんていう重要な物を奪われるわけにはいかないんですよ。
 つまるところ、我々とあなた方の目的は一緒で封印を維持すること。」
芦屋さんは一気に言うと、ニヤリと微笑んだ。

「典薬寮が私達にとって有用だと思ったのでこの申し出を受けました。」
「典薬寮の協力を得たとして私達にはどのようなメリットが?」
私は二人に向かって問うたが、やはり答えは芦屋さんからだった。

「我々は敵に対する様々な情報を掴みかけている。
 が、その情報を有効利用する力がない。しかし…」
「わかりました。」
私は芦屋さんの話途中で返事をする。

「…ではまた情報が確定しましたら後々。」
芦屋さんは肩をすくめ、そう言い残し帰っていった。





芦屋さんがいなくなり、二人きりになると切り出す。
「さて、おばあ様。当代の玉依姫よ、と責任を私に押し付けて
 その実、私には決定権すら無いというのは如何なものでしょう。」

「そ…それは…私はあなたに良かれと思って…」

「ええ。そうでしょう。お優しいおばあ様のことです。
 私を思ってのことでしょう。」

私はそこで隠し持っていたノートを持ち出す。
「では何故このノートに書かれているようなことを黙っていたのでしょう。
 このロゴスを退けた…という玉依姫はおばあ様ですよね?」

おばあ様は唇を噛み締め頷く。

「おばあ様にそのような力がお有りとは知りませんでした。
 それで私、おばあ様にお願い事があるんですが…」



2006.08.07