◆四章一日目(4)◆

おばあ様と話が終ると、美鶴ちゃんが夕食の準備が出来たと言いに来たが
そのまま部屋に戻った。
美鶴ちゃんは「朝から何も召し上がってないのに」と心配そうだったが。
美鶴ちゃんが慎司君と距離を取る理由に気づいてしまった今。
二人っきりで食事をするのが怖い。

机の上で頭を抱え、今日あった事を振り返っていると

コン

窓ガラスに何か当たる音がして目をあげる。

「慎司君…」





こっそり玄関を出ると、境内へ向かって歩き出す。

「体は大丈夫?」
「ええ、先輩こそ大丈夫ですか?」

私は頷くと山門から続く石段に腰掛ける。
慎司君は少し戸惑った後、並んで座った。

「僕、今日は先輩と一緒に帰るのを楽しみにしてたんです。」
「え、あ、ごめん。学校休んじゃって…
 じゃあ、明日一緒に帰ろう?」
いえ、いいんです…と慎司君は首を振る。

「先輩、今日は元気ないですね。」
「そ、そうかな?今日はいっぱい寝ちゃって頭がまだ回ってないのかも。」

「僕、先輩の笑顔が好きです。」
慎司君が囁く。

「だから先輩にはいつも笑っていて欲しい。
 僕はまだ半人前だけど。先輩の力になりたいんです。」

慎司君の言霊の力の所為なのか、思わず涙腺が緩む。
唇を噛み締め、目を瞑って感情の波をやり過ごそうとする。
慎司君は何も言わずにそっと手を握ってきた。

どれ位そうして手を繋いでいただろう。

「もう大丈夫…ありがとう。」

慎司君は私の笑顔をみると安心したように手を離し立ち上がる。

「先輩。もしあの時…」
言いかけてやめる。

「あの時?」

「もしあの時、真弘先輩が反対しなかったら、祐一先輩でなく
 僕のことを選んでくれました?」

ごめんなさい、忘れて下さい…私の答えを待たずに走り去っていった。



2006.08.07