◆四章二日目(3)◆

「ここに一人で住んでいるのですか?」
大蛇さんの部屋に通されたが、他に人の気配がない。
「ええ。父も母も亡くなっています。通いで家事をしてくれる方がいますが…」

「大蛇さんと結婚すると玉の輿ですね。」
深く考えもせず、うっかり口にしてしまった。
「そうですか?ではあなたが乗ってみますか?」

「え、え、え…と。」
「そろそろ私も身を固めてもよい頃だと思っていたのですが。
 どうですか、珠紀さん?」
よ、呼び方が『春日さん』から『珠紀さん』に変わっているし!

「どう、と言われましても…」
「そうなると『大蛇』と呼ぶのも変ですから、あなたも『卓』とお呼び下さい。」

「わ、私喉が渇いて…お茶が欲しいなぁ…なんて。」
無言でジワジワと部屋の隅に追い詰められる。

「あの…守護者は玉依に逆らうことは禁忌ですよね?」
気付いてしまいましたか…と言うと、大蛇さんはお茶を煎れに部屋を出て行った。





大蛇さんがお茶を煎れて戻ってくると、先程の話を蒸し返されないうちに…と
昨日典薬寮と提携することになったことを報告し、典薬寮について質問する。
大蛇さんは「あなたは本当に真面目ですね」と小さく溜息をつくと語り出した。

紅陵学院は明治政府が作った典薬寮の出先機関であったこと
季封村は国により隔離・閉鎖されていたこと
その理由は「鬼斬丸の封印とその情報の管理」
及び「カミの血を引く守護者を研究、利用、封鎖」するためであること
最近になっておばあ様が鬼斬丸の封印を盾に典薬寮を村から追い出したこと

「お茶、煎れ直してきますね。」
大蛇さんは立ち上がった拍子に、バランスを崩したらしくよろけてしまい
手をついた棚から机の上に写真立てが落ちてくる。

えーと。この写真にふれて欲しいってことですよね?
「これは大蛇さんのお母様ですか?」
「ええ。この写真を撮った直後に亡くなってしまったので思い出の写真です。」

「そうですか…」
「どことなく、あなたに似ている気がしませんか?」

「に、似てないと思います!!」
「そうですか?芯のある美しいところが似てると思いますよ。」
お茶を煎れる為に立ち上がった筈なのにいつの間にか隣に座っているし!

「あ、あの失礼ですけど!死因はなんですか?」
こんな風に唐突に言えば引いてくれるだろうと思ったのに…
「『カミカクシ』だとババ様が。父も母の後を追うように逝ってしまい…」
どんどん近づいてきてるんですけど!!

「大蛇さん!お茶!お茶下さい!!」



2006.08.08(初) 2006.08.10(改)