◆五章二日目(1)◆

…疲れた。

この人数分の朝食を準備するなんて。
トーストとコーヒーじゃ駄目かな?
…なんて一瞬思ったんだけど。
昨日の美鶴ちゃんの朝食を思い出すと…

「先輩?僕にお手伝いできることないですか?」

「え?あ。慎司君おはよう。」
振り返ると台所の入り口にエプロンを付けた慎司君。

「おはようございます、先輩。」
「良く眠れた?」

部屋争いの結果、大蛇さんは一人部屋を与えられたのだが
慎司君他3名は居間で一緒に寝ることになったのだ。

「え。えっとー。あはははは…」

…眠れなかったんですね?
うーん。大いびきかきそうな人が2名。
他1名はどこでも眠れそうだし。一番繊細そうな慎司君が割を食ったということか…
私よりも少し高い位置にある慎司君の頭をよしよしと撫でる。

「せ、先輩?」
「じゃ、手伝ってくれる?」

「はいッ!」

自分から手伝うと言うだけあって、慎司君はかなり料理が上手だった。
その事を褒めると頬を染めて言う。
「昔から好きだったんです。子供の頃は美鶴ちゃんにも料理を教えたんですよ。」

慎司君、今『美鶴ちゃん』って?
こうして一緒に暮らしている内に少しは仲良くなってくれると良いんだけど。
ちょっと美鶴ちゃんの方が…まだ、ね…





「お、お、お?」
「当店はビュッフェスタイルのセルフサービスになっております。」

居間は皆が洗面所に立っている間に台所のテーブルごと
料理を運び入れ、入り口付近にお盆食器類を配置している。

「これ全部食っていいのか?」
「ちょッ!真弘先輩、一つの料理を独占しない!もーッ、先輩は一番最後に並んでください。」
「なんでだよー。」文句を言いながらも列の最後につく。

「取った分は全部食べてくださいね。残した人は後片付けの手伝いをしてもらいます。」
…朝御飯は「うめぇ、うめぇ」の合唱の内に、あッという間になくなった。



2006.08.11