◆五章二日目(3)◆

慎司君と別れた後、私はおばあ様の部屋へと向かう。
いつもならば美鶴ちゃんに取次ぎを頼むのだが緊急事態だ。

「おばあ様、失礼します。」
返事を待たずに襖を開ける。

「美鶴ちゃん、外してくれる?」
美鶴ちゃんは席を立とうとするが、その手をおばあ様がシッカリと握っている。

「美鶴ちゃん、お願い。」
「ええ、でも…」
「美鶴にもここにいて貰います!」
既におばあ様は美鶴ちゃんに縋りついている状態。

私は諦めて切り出す。
「蔵で【家系図】を見つけました。」
「そう…あれを。」

「本当ですか?」
「ええ。当時犬戒の家には跡継ぎがなく、言蔵家では双子の男子は凶事とされていたので渡りに船だったの。」
「ちょっと待って下さい!言蔵家の双子って、犬戒家の跡継ぎって!?」美鶴ちゃんが叫ぶ。

「美鶴ちゃんの思っている通りだよ。」
私は静かに言うと、襖を閉めた。





早歩きで蔵へと向かう。
きっと皆も今頃【家系図】を見てしまっただろう…

「やあ。今日はご機嫌斜めの様子だね。」相変わらず暢気そうに芦屋さんが言う。
「ええ。見ての通りです。」歩みを止めずに答える。

「君が気にしていた、アリアだが。アジトに幽閉されているそうだ。」私の後をついて来ながら言う。
「そうですか。」更に足を速めながら答える。

「あの。ここは関係者以外立ち入り禁止です。」
尚もついて来ようとする芦屋さんに向かい、蔵の入り口で宣言する。
「おや、そちらの彼は関係者なのかい?」
…しまった。蔵の中からこちらを覗いている明らかな部外者が居ることを失念していた。

「まあ…関係者といえなくもないか。」
「どういうことです?」

「おっと。これは口が滑った。」
…態とらしい…
「理由を教えて下さい。」

「昔。僕がまだ典薬寮に入るよりずっと以前。当時の犬戒家の当主から典薬寮に泣きつかれたんだ。
 自分の息子に跡を継がせたくないからと。当時、玉依姫と典薬寮の仲は良いとはいえなくてね。
 守護五家に恩を売っておくのが良いだろうと、ババ様に内緒で犬戒家の本当の息子を狗谷家に養子に出したという訳さ。」

言いたいことだけ言った芦屋さんは手のひらをヒラヒラさせて去っていった。



2006.08.11