◆五章二日目(4)◆

重苦しい沈黙を破ったのは「あー、腹減った。」と暢気な声。
そうだった…封印域の見回りに行っていた真弘先輩と拓磨を忘れていた。

「ご…ごめ…まだお昼御飯、用意してない…」
「なーんだよぅ!メシ、メシ!早く!」
「はいはい、すぐ用意するから。」

「あなたも食べるでしょ。」蔵に向かって声を掛ける。
「…俺はいい。」暫くの間をおいて答えが返ってくる。

「お腹空いてると、悪いことばかり考えるから。」
「俺はここにいる。宇賀谷の近くは匂いがキツイ…」

「そう?じゃ境内の方で待ってて。すぐ戻るから。」私は一人残る彼を気にしながらも台所へと急ぐ。

もしかしたら美鶴ちゃんが用意してくれているかも、と淡い期待を持っていたが…
美鶴ちゃんは部屋にも台所にも居なかった。
朝のうちに用意しておいたパスタを手早く作ると、サラダを添える。

居間での配膳が済むと、次いで境内に二人分運ぶ。
狗谷は文句も言わずに一人分を受け取ると、黙々と食べ出す。
二人きりなら何か話すことがあるかと思ったが、何も話す気はないらしい。
私達はまるで話さない理由にするかのように、ただ食事を口に詰め込んだ。

食事が済むと食器を持って居間へと戻る。
居間では先程の出来事を大蛇さんが話していたようで、食事前よりも空気が重くなっていた。







昼食後は拓磨、真弘先輩、大蛇さんに慎司君の捜索をお願いし、私は祐一先輩と封印の見回りと称し出かける。

「珠紀。何で俺を選んだんだ?大蛇さんではなく…」
「拓磨や真弘先輩は隠し事が出来ないから。大蛇さんはおばあ様に報告しちゃいそうだし、それに…」後ろを指差し。
「祐一先輩に聞きたいこともあったので。」
「ああ…」先輩は頷く。

「登校拒否になった理由はわかりますか?」
「いや。1年前に突然。」
背後から返答はない。
「…そういえば。その頃狗谷の父親が亡くなった筈だ。」

「理由はわかりますか?」
「いや。」

私は振り返ると尋ねる。「それって『カミカクシ』?」
「…違う。あれは『カミカクシ』なんかじゃない。あれは…」
背後を歩いていた狗谷は怒ったよう言う。

「そっか…ごめん。」私は立ち止まると、頭を下げる。
「…おまえ、知ってたのか?」狗谷が驚いた声をあげる。



2006.08.12