◆五章二日目(5)◆

「私がいなかった時のこととはいえ、申し訳無かった。
 でも…これからは犠牲を出さない。
 誰かに犠牲を強いる封印なんて行わない。約束する。」

「そ、うか…わかった。」ありがとう、と小さい声が聞こえた気がする。
俯いているので表情は見えないが、しきりに目を擦っている。
私は前を向くと、ゆっくりと歩を進める。

「もう、終わったのか?」祐一先輩が尋ねる。
「はい。」

「そうか…良く頑張ったな。」先輩は頭をポンポンと優しく叩く。
「先輩。あの…聞かないでも良いんですか?」
私は大蛇さん以外の守護者には封印の為の贄の話をしていない。

「ああ、いい。おまえが笑ってるってことは良いことなんだろ?」
私は溜息をつくと答える。
「先輩…女性の笑顔を簡単に信用しちゃ駄目ですよ。
 私、先輩が女性に騙されないか心配です。
 二股かけられちゃったり、借金の保証人にされちゃったり…」

「おまえ、勘違いしてる。」先輩は笑いが堪えられないという風に噴出す。

「俺はそう簡単に他人のことは信用しない。
 それにいざとなれば幻術で人の裏側を見ることも出来る。」

そうか…と納得していると、また頭をポンと叩かれた。
「じゃあ、封印の見回りに行くか。」







「異常はないな。」
「先輩、宝具はどこにあるんですか?」

「ああ。そこの岩だが。何を?」
岩に触れると手が吸い込まれていった。
柔らかめのゼリーの中を泳いでいるようだが、なにか固い物に手が触れ、引き抜くと指輪が手の中にあった。

「これが宝具ですか?」
先輩は頷く。
「これから残りの宝具を神社に集めます。ロゴスに反撃に出ます。」

先輩は目を見開くと、狗谷を振り返る。
「いいのか?」
「とりあえず今は敵ではないようです。それに今日から敵に接しないように一緒に神社で暮らしてもらいますから。」



2006.08.12