◆五章三日目(4)◆

アリアの手を取り並んで歩く。
「…先輩。あの僕…」
背後からおずおずと慎司君が声を掛ける。

「あの…僕。」
「よい、フェンフ。私から話そう。」
「大丈夫です、アリア様。僕、自分で先輩に…皆に話したいんです。」

8年前。
修行と称して狗神の社に預けられたが、そこから生きて出されることはないと判っていた。
自分には玉依側に居場所はないと絶望していた。
そんな中でロゴス側の接触があり、居場所を与えられた。
その約束を希望に8年間を耐えたこと。

「僕を許して欲しいとは思いません。
 でも僕に居場所を与えてくれたアリア様を守りたい。
 そして…僕の居場所を奪った封印の呪縛を破壊したい。」

「慎司君、私はあなたの居場所になれないのかな?」
「だって!僕はロゴスに玉依の情報を流していたんですよ!」

「慎司君はそれが正しいことだと思っていたのでしょう?
 自分の為だけではなく、守護者の皆を封印の呪縛から解放したいって思っていたのでしょう?」
「…先輩…僕は…」

「慎司君。犬戒でもなく、言蔵でもなく、ただの慎司君として私に力を貸してくれる?」
「…先輩。」
慎司君の目から涙が溢れ、零れる。
私は明いている方の手で慎司君の頭を撫でる。





「おい。ゆっくりしている暇はなさそうだ。」
今まで会話に加わらなかった狗谷が切り出すとアリアも続く。
「アインとツヴァイか…」

慎司君は乱暴に涙を拭うと、叫ぶ。
「珠紀先輩はアリア様を連れて逃げて下さい!」
「待て。私に話をさせて欲しい。」

「アリア?」
「私もおまえを見習って手下を信じてみることにする。」



2006.08.15