◆幕間十◆

「美鶴ちゃん。」
「い、犬戒さん…」

「あの…僕…」
「帰っていらしたのですね。」
美鶴は一瞬目を合わせると、俯いた。

一日会わなかっただけだというのに。
瞼は腫れ、目は血走り、髪はボサボサ…
慎司は手を伸ばす。

「僕の所為だ。」
髪を一房取る。
美鶴はピクリと反応したが離れるでもない。
「ごめんね。」

「どう…して…」
下唇を噛むと目をあげる。

「私、慎司君が帰ってきたのが嬉しかった。」
「うん。」

「私が今まで生きてこれたのは慎司君との思い出があったからなのに。」
「うん。」

「兄妹だなんて…」
堪えきれなくなった美鶴の瞳から涙が零れる。

「うん。僕も驚いた。でも…」
髪に触れていた手を離すと、涙を拭う。

「でも、これで僕達はずっと一緒だね。」
美鶴を安心させるように、静かに微笑む。

「お…兄さん。」
美鶴が慎司の胸の中に飛び込む。

「もうどこにも行かないで下さい。」



2006.08.16