◆六章一日目(5)◆

「こーんにちはー!」
蔵から出ると境内から暢気な声が聞こえる。
「え、あ?清乃ちゃん?」

「んもーッ。心配しちゃったよー。珠紀ちゃん全然学校に来ないんだもん。」
清乃ちゃんは手を駄々っ子のようにブンブン振り回す。

「えーと。心配お掛けしちゃってゴメンナサイ。で、他に御用は?」
「つーめーたーいッ。珠紀ちゃんったら…つめたーい。」
今度は泣き真似をしてるし…涙出てないよ、清乃ちゃん?

「あー。今、忙しくて…」
どうやってこの場を切り抜けようか考えていたら…
「珠紀、どうした?」真弘先輩が赤い頬を擦りながらやって来た。

「な、なに、なに?鴉取先輩!?ど、どういうこと?ってこういうこと?もしかして大穴きた?」
「そうそう!そういうこと!俺が彼氏!」真弘先輩喜色満面で答える。

…駄目だ。この展開は…

「誰が誰の彼氏なんですか、鴉取君?」
「真弘、嘘は良くない。」
「そうッスよ、真弘先輩。」
「真弘先輩…」
「…」

「え、え、え?何これ?どういうこと?」
清乃ちゃん目をキラキラさせながら、男性陣を眺めている。





場所を移して、ここは居間。
お茶を飲みながら、なんとか清乃ちゃんを落ち着かせる。

はぁぁぁぁぁぁぁぁ…疲れた。

私がグッタリしていると、清乃ちゃんは「ね、ね?お部屋見て回っていい?」と、もう立ち上がっている。
「や、ちょッ、まッ!駄目〜ッ」…と言ってる私の目の前で襖が勢い良く閉まる。

「え?なんで?」開かない?先程まで普通に開閉していたのに?
押せども引けども全く駄目。
外にいる筈の守護者達に開けて貰おうと大声を出しても全く聞こえていないようで…

…約10分後…

「ただいま〜ッ!!」と清乃ちゃんが戻ってくるまで閉じ込められた…





「あれー?どうしたの珠紀ちゃん?なんか疲れてない?」
清乃ちゃんは凄く満足そうな笑顔を浮かべている。

「じゃ。珠紀ちゃん疲れてるみたいだから、私帰るね?」
手をヒラヒラさせて帰り支度をする。

…おかしい。
さっきまでは私があからさまに帰って欲しい様子を見せていたのに、全然帰らなかったのに。
突然帰るなんて!

「清乃ちゃん、ちょっとゴメン!」驚く清乃ちゃんを無理矢理押さえつけ、ポケットを漁る。

…やっぱり…

「あ…のね、これには理由があってね!」清乃ちゃんがわたわたと手を振りながら話す。

「うん、理由聞くよ。一晩中でも。暫く清乃ちゃんにもここに泊まって貰うから。」
ポケットの中から宝具を取りあげながら、ニッコリ微笑んだ。



2006.08.16